2020年08月12日

愛しい人よ、何故逝った。(ヤマ長)

ヤマムラに対して恋慕の情を抱いてしまったヴァルトールさんと、いつも誰かにおいていかれる人生だったヤマムラさんの話です。

個人的にヴァルトール→ヤマムラ話なのでヤマ長ジャンルにしてますが別にくっついたりはしないんだよなぁ。
(しないんだよなぁ)

双方相手を悪く思ってないんだけど、双方があまりに心がすり減ってしまっている。
そんな哀愁の墓場です。

どうぞ。(どうぞー)


「置いていかれた男」

 連盟が幾つか隠れ家として使ってる小屋へヴァルトールが趣いた時、ヤマムラは壁にもたれたまま静かに寝息を立てていた。

「同士ヤマムラ……寝ているのか?」

 声をかけても返事はない。
 得物である千景を抱いたまま寝息をたてるヤマムラの傍らに膝をつけば、その脇には使い古された狩人帽が置かれていた。
 それはずっと以前にヴァルトールがヤマムラへ渡したものである。

 狩人を続けるのであれば、頭を守るものがあった方がいいだろう。
 使い古しの帽子だからより自分に適したものを見つけたらすぐ買い換えるといい。
 そう言って渡したのに、ヤマムラは律儀にそれを使い続けている。

 最初は自分のお下がりなんて早く捨ててしまえばいいのにと思っていたが、今は自分の与えてくれたものを使い続けてくれている。そんなヤマムラに対して喜びのような気持ちが勝っていた。

「……ヤマムラ」

 ヴァルトールは静かに囁き、ヤマムラの髪に触れる。
 闇のような黒髪は存外に細く柔らかでヴァルトールの指その間から零れるように逃げていった。

 いつからだろう、同士の一人であるこの男を「愛しい」と思うようになったのは。
 他の連盟員より歳が近いのもあったろうし、ヤマムラはやけに聞き上手でつい色々と話してしまうというのもあったろう。
 復讐を終え、ほとんど抜け殻のようになっていたヤマムラが連盟に来てから日に日に活力を取り戻し、元気な姿に戻っていったその姿を見ていて「自分のした事は間違っていなかったのだ」と思わせてくれた事も大きい。

 知らない間に自分の支えであり、日常への縁となっていたヤマムラに対してヴァルトールの感情がすでに感謝以上のものになっていたのは間違いなかった。

「ん……あぁ、長。いらしていたんですか」

 髪に触れられた事で流石に気付いたのだろう。
 ヤマムラは眠たそうに目を擦りながら、抱いていた千景を傍らに置く。

 ……言ってしまおうか。
 この思い、たとえ叶わなくとも秘めているままなら伝えてしまったほうが楽だろう。

 そう思い顔を上げた時、ヤマムラはまるでこちらの気持ちを見透かしたかのような目でヴァルトールを見つめた。

「……長。俺は、ここまで来るのに随分と沢山のものを『失って』きました。人にも、思いにも置いていかれて……だからもう、置いていかれるのは沢山です。もし貴方が……貴方が俺を置いて消えてしまわないのだったら……俺はあなたの言葉を受け取ります。だけどもしそうじゃないのなら。それが約束できないのなら、どうかその言葉は言わないでください」

 ヴァルトールは言葉を飲込む。
 すでに『視えない』自分はいずれ代りになる誰かを求めてただ彷徨う亡霊のようになりはてていた。
 そしてもし自分より優れた狩人がいたのなら、自分は……。

「……いや、そうか。何でもない。気にするな」
「はい……」

 ヴァルトールは立ち上がり、居たたまれないように小屋から出る。
 振り返った時ヤマムラは、当てもなく虚空を眺めているだけであった。
posted by 東吾 at 20:40| ブラボ