2020年08月03日

殺して欲しいと願った日。(アルヤマ)

アルフレートくんのふとした行動から「あぁ、招待状を手に入れたんだな」と気付いてしまうヤマムラさんが、アルフレートくんに「殺してくれ」と懇願する話です。

今回は台詞も全部地の文にしちゃった。
うふ。(何故かセクシーを振りまく)

凝縮された地獄を練り込んだわさびみたいな感じにしてますが凝縮された濃縮還元地獄コンテンツが好きな人向けです。
つまり俺向けって事だな!

二次創作は全部俺向けなんだよ!
どうぞ。





「それでもキミは生きろと願った」

 おかえりなさい、ヤマムラさん。
 出迎えてくれたアルフレートのその柔らかな微笑みを見て、「あぁ、アルフレートは明日にでも旅立つんだな」という事をヤマムラは気付いてしまった。

 何故そう思ったのか、その理由を明確には説明できない。
 だがその笑顔が、その声が、その仕草全てがどこか吹っ切れたような、晴れ晴れしいような、だが哀しさを誤魔化しているような、そんな気がしたから、何とはなしに今日が共に過ごす最後の夜だという事に気付いてしまったのだ。

 だがきっと、何も言わないのなら気付いて欲しくないのだろう。
 ヤマムラはそう思い、あえて気付かぬふりをした。

 別れの時が迫っている中、最後までいつも通りに接して欲しい。
 アルフレートがそれを望んでいるのなら、叶えてやるのが最後の勤めだろう。
 それに、ヤマムラは自分が鈍感な方であると思っていたし、実際アルフレートから何度もモーションをかけられても気付かず失敗していた事が何度もあった。
 今日の予感も、ただの自分の思い過ごしかもしれない。

 いつものように二人で食事をとり、少し酒を飲んで、自然とベッドで絡み合う。
 シーツの上に押し沈められ、アルフレートからの優しい愛撫を受けながら彼はふとこんな事を囁いて見せた。

 ヤマムラさん、私にしてほしい事、ありますか?

 それは普段からアルフレートがヤマムラに聞く言葉だった。
 ヤマムラは自分から求めてしまうのは気恥ずかしくていつも「キミの好きにしてくれていい」と、そう伝えるのがやっとだったが、その時それが最後なんだと強く思ってしまったヤマムラは、とうとう思いを抑えきる事が出来なくなっていた。

 だったら、俺を殺してくれないか。

 自然とそう口から零れていた、その言葉にアルフレートは少し困惑したようだった。
 ヤマムラはしまった、と思ったがすでに口にした事だ。今なら冗談だといえば笑って終るのだろうが、今日で全て終ってしまうのだと思うと、言わずにはいられなかった。

 俺を殺してくれないか。
 愛するものを失って、その思いを抱えながら生きるのに俺は歳を取り過ぎた。
 老骨の狩人を哀れに、だが愛しく思ってくれるのなら、どうか俺を殺してはくれないか。

 我が儘なのはわかっている。
 だが、キミが輝きに向う中、その背にほんの一欠片でも俺という陰を背負ってくれるのなら、俺は喜んでこの命を差しだそう。

 俺にとってもキミはきっと、最後の恋だろうから。
 最後に愛したキミの手にかかるのなら、きっとそれが俺の幸福だと、そう思うから。

 気付いた時は、そんな思いを告げていた。
 もっと感情的にまくし立てるだろうと思っていたが、存外に冷静で……抑揚のない声で、諭すように淡々とそう語っていた。

 アルフレートは最初こそ困惑したような表情を向けていたが、やがて全て察したような笑顔を向けると強くヤマムラの身体を抱きしめた。

 それなら、私が殺してしまう前に今日という夜を楽しみましょう。
 貴方の最後に、相応しい夜にするために。

 それからどれだけ抱かれただろう。
 甘い吐息を重ね、唇を重ね、肌を重ねて意識が遠くに溶けてしまう程に激しく抱かれて、やがて精根尽き泥のように眠るヤマムラの首に、アルフレートの手が触れた。

 あぁ、死なせてくれるのだな。
 苦しいと思えば生存本能が勝り抵抗をするかと思ったが、身体は驚くほど穏やかにその死を受け入れていた。

 これでもう、目が覚める事はない。
 アルフレートは輝きに向い、輝く光の影に自分の思いを残していくのだ。
 そう思うだけでヤマムラは幸福な眠りにつけた。


 だが、目覚めてしまった。
 起きた時にすでにアルフレートの荷物はなく、ヤマムラの身体には鈍い痛みと強い喪失感が残る。

 殺してくれといったのに。
 それでも、アルフレートは自分を殺さず生かしておく道を選んだのだ。

 アルフレートの性格だ。
 それが「自分を忘れて新しい人を見つけて欲しい」なんて優しさではない。
 これからも自分の面影を背負って、それでもヤマムラに生きてほしいという強いエゴによる生だ。

「まったく、キミは最後まで我が儘で独善的で、自分勝手な男だったな……」

 ヤマムラはベッドの上で嘆息をつくと、止めどなく溢れる涙を拭く事もなく天を仰ぐばかりだった。
posted by 東吾 at 17:38| ブラボ