2020年05月10日

恋心を押さえ込んで。(マジェディス)

マジェントに片思いするディスコちゃんが、恋心を押さえ込みながらマジェントとお酒を飲む。
そんなSBR刺客チームにあり得たかもしれない情景を書きました。

言えない事、やれなかった事。
それはやった時よりも後悔がデカイっていうよね!

それだけの話です。
最近はSBRネタもまた書けるようになってきた気がします……はい。


「言えなかった言葉はより深い後悔を産む」


 今思えば、あの時が最後のチャンスだったのだろう。

「俺さァー、今度ネアポリスから来たっていう奴と組んで、仕事するんだよ」

 マジェント・マジェントはグラスを傾けると、ディ・ス・コにも聞こえるようなだみ声でそう告げた。
 酒の席でみなが陽気になり気が大きくなって騒ぐような場でも、マジェントの声はよく響く。

「そう……新しい仕事、与えられる。信頼の証……よかったね」

 ディ・ス・コはそう言うと、氷の入ったグラスに指を入れぐるりと一度かき回しついた雫を舐めた。
 酷く苦い味が口の中に広がる。
 どちらかと言えば甘いものが好きだったディ・ス・コにとって酒はどれもほろ苦く、美味しいものではなかった。

「そうかなァー、でもすげー寒い所らしいぜェー。なんかいかにも左遷されてるような感じでよぉー。ホントにこんな仕事続けて、ディスコちゃんみたいに大統領の側近になれるのかって思う事あるんだよなぁー」

 スティール・ボール・ランが始まってから、大統領は元々自分の配下にいたスタンド使いの他にも多く、スタンド能力をもつ輩をほとんど無造作に集めていた。
 ディ・ス・コはその中でも古参の方で、ブラックモアやマイク・Oのようにヴァレンタイン大統領の傍にいる事を許された側近たちである。

 大統領は金や権力、欲しい権利などをちらつかせて立場の弱い人間を多く集めてきた。
 だがその殆どは捨て駒で、運良く帰ってきても大きな地位など与える事はないのだろう。
 そもそも、国を動かすような大きな地位よりも目先の金や居住権のような小さな権利だけを望むものばかりをスカウトしているのだから、マジェントがどんなに望んでもディ・ス・コと同じ地位をえられるはずはないのだ。

「大丈夫、なれるよ。だって俺も、マジェントの家族になりたいって思うから……俺からも、大統領に頼んでおくから……」

 自分の嘆願を大統領が取り入れるはずがないのは分かっていた。
 だがそれでも正直に「無理だ」とか「なれるはずがない」と言えなかったのは、マジェントが悲しむ姿を見たくなかったからだ。
 いつも笑っていて、いつも楽しそうで。この世界がろくでもない事を知っていながらも、表にそれを出さないマジェントの事をディ・ス・コは敬愛していた。

 ディ・ス・コにとってマジェントはただの下っ端のクズではない。
 いつでも笑っている所を見たいただ一人の男だったのだ。

 最もそんな事を言ってもマジェントを驚かすだけだろうから、その感情は口に出した事はないのだが……。

「それじゃ、そろそろ帰るか。今度の依頼、長くなりそうだから暫くディスコちゃんにも会えないなぁ」

 そう言われると、急に不安になる。
 マジェントは大統領にとって「捨て駒」側の人間だ。自分よりずっと危険な仕事をしているのだ。
 そんなマジェントが「暫くあえなくなる」くらい遠くに行ってしまうのなら……。

「……言っちゃおうかな」

 この思いを今告げておかなければならないような気がする。
 だが。

「何か言ったかディスコちゃん」

 そう言って笑うマジェントを見ると、やはり言う事はできない。
 マジェントの笑顔が侮蔑の顔や嫌悪の顔に変わるのは嫌だったし、今の距離感が嫌いではなかったから。

「ううん、何でもないよ。気をつけて、行ってらっしゃい」

 ディ・ス・コは静かに首を振り、去りゆく友に手を振った。
 今はこの関係を崩したくはない。
 戻ってきた時また酒に付き合ってもらって……もう暫く傍で彼の笑顔を楽んでいるうちに、苦手な酒も飲めるようになっているだろう。

 そう思いながら、ディ・ス・コは一人帰路につく。
 それがマジェントを見た最後の日になるとは、思いもしなかった。
posted by 東吾 at 19:35| ジョジョ駄文