2020年05月07日

手塚くんと芝浦くんの平和な世界

仮面ライダー龍騎の手塚と芝浦が何となく仲良くなっている。
そんな世界線の話を書きました。

以前、手塚と芝浦が何となく友達になる話は書いたんですがイッメジ的にはその続きです。
その時の話「鈍色の西洋銀貨」は こちら にあったりしますんでイメージは沸きやすいかと。

突然龍騎ネタを書く……。
特に手塚、芝浦なんかをかくのは多分18年前この二人が漫才やるようなネタを書いていた名残でしょうねぇ。
何もかもがなつかしい……。

んでは、何となく仲がよい手塚と芝浦が見たい方どうぞ。





「鏡映しの未来」

 夢を見ているのかすら曖昧のまま、様々な情景が渦巻いて意識の奥へと沈んでいく。

 決して外れる事のない自らの占い。
 その占いにより死の運命を予言された男は、自分と同じ「仮面ライダー」であった。
 恋人を失い、その贖罪のため半ば自暴自棄になっていた彼の戦いを見て居れば、手塚海之でなくとも彼に遠くはない死がある事は予見できただろう。
 だが、死ぬ事が分かっている人間をおめおめと死なせてそれを「仕方なかった」で済ませるのはゴメンだ。

 思いは暴走し、手塚は半ば強引に死の運命を抱いた男……秋山蓮の住まいへと押しかけた。
 冷静に考えてみれば面識もろくにない、ただ同じ「仮面ライダー」である事と「あまり戦いに積極的ではないこと」だけで自分を信頼し、招き入れてくれた城戸真司という男や喫茶店のオーナーなど、あの場所は「善き人々」の集まりであったと言えるだろう。

 だからこそ、秋山蓮は冷酷に徹する事を迷い、惑い、自暴自棄へ陥って、死の運命を引き寄せてしまったのかもしれないが……。

 だが運命は変わった。
 秋山蓮を庇うという形で、自分の命を代替えにしてだが、彼は死の運命から逃れる事が出来たのだ。

 それは手塚が幾度も繰り返してきた、運命は変わらないという絶望から解放された瞬間でもあった。

 この生々しいまでの記憶と情景は、果たして本当にただの夢なのだろうか。
 それとも実際に自分がどこか別の世界で体験した出来事なのではないだろうか。
 もし体験したのなら、それはいつの事で、どこで体験したのだろうか……。

 記憶は泥のように深層心理の奥底へと沈んでいき、どんどん曖昧になる。
 そして手塚はまた全ての記憶を忘れ、現在(いま)という時に目覚めるのだった。

「お、やっと起きたのか手塚ぁー。随分グッスリ眠ってたみたいだけど、お疲れ?」

 やっと目を覚ませば、聞き覚えのある声がする。
 その方を向けば、見知った男が……芝浦淳がキッチンに立ち朝食の準備らしい事をしていた。
 彼は現在大学生で、フリーの路上占い師である手塚の占いに興味をもち何度か占っているうちに段々向こうが懐いてしまい、しばしば家にもやってくる「友人」のような間柄になったという関係だ。
 だが何故彼が部屋へと入ってきているのだろうか。合い鍵を渡した覚えなどないのだが。

「お前……どうやって俺の部屋に入った?」
「えっ? どうやってって、ドアから普通に……あ、鍵! 鍵がかかってなかったんだよ。お前、疲れてたんだろ? 鍵もかけずに寝るなんて、都会済みなのに不用心がすぎるぜ?」

 芝浦にそう言われ、昨夜の事を思い出す。
 珍しく酒が飲みたくなり、バーでウイスキーをロックでひっかけた所までは覚えているが、そこからの記憶は酷く曖昧だ。元々あまり酒にも強くないから、家に帰ってベッドに飛び込みそのまま鍵もかけず眠ってしまったのかもしれない。
 酒を飲んで気が大きくなっていた所もあるのだろう。盗むものもないのだから、どうにでもなれと思っていたのかもしれない。

 だが実際、勝手に部屋に入られるとは思っていなかった。
 今回は見知った顔であり、友人である芝浦だったから大事にはならなかったが空き巣や強盗に入られたら目も当てられない。

「男の一人暮らしって丁寧な暮らしが出来なくなるのはわかるけど、気をつけろよー? 世の中には怖い奴とか悪い奴がいーっぱいいるんだからな」

 芝浦はアッケラカンとした様子でそんな事を言いながら、台所で右往左往している。
 何をしているんだと思い隣からのぞき込めば、ボールの中にバラバラに砕けた卵が入っているのが見えた。

「あ、これ! 違うんだ、その。何というかな……鍵開いてたから勝手にはいって、そしたらお前まだ寝てるだろ。勝手にはいって悪いなーと思ったから、朝飯くらい作っておこうかなーと思って……し、失敗じゃないからな。天才の俺が失敗とかする訳ないから」

 どうやらこのバラバラに砕けた卵は朝食のなれの果てらしい。

「でも、何かうまくいかなくてさ。普段俺、家では何でも家政婦さんがやってくれるからあんまりこういう事しないんだよね.レシピは知ってるんだけど……」

 つまるところ、キッチンに立つのも初めてだったようだ。

「わかった、貸してみろ」
「い、いや。でもお前に悪いし……」
「一緒にやれば早く終るだろ。芝浦、おまえはトーストでパンを焼いてくれ。オムレツは俺が担当しよう」
「お、おう。わかった!」

 頭でっかちで知識先行の芝浦は豊富な知識をもつ事を自負しており、それ故にプライドが高い。
 へたに仕事を取り上げるより、一緒にやった方が本人も素直に受け入れてくれることを、手塚はよく心得ていた。

 そうしてトーストを焼き、卵の殻をとりのぞいたオムレツを作り、芝浦にはトマトとキャベツを刻んで貰う。
 スープを作るのは手間だったからインスタントのポタージュスープをカップに入れて並べれば、二人前の朝食完成だ。
 朝の珈琲は勿論、カフェイン抜きである。

 パンと卵をやいて野菜を刻んだだけのシンプルな朝食だったが、それでも芝浦は自分で作った事に酷く感動したようだった。

「すげー、これだけの朝食が一瞬で出来ちゃうんだな」
「今回は二人だったから早かったんだ」

 実際、キッチンは二人で使うより一人で使った方が手塚の場合手際よくできるのだが、それは今言う必用はないだろう。
 芝浦はトーストを頬張ると美味しいと感激しながらも。

「やっぱ俺、一人暮らししようかな……」

 聞こえるような独り言を呟くのだった。
 家にいれば何不自由ない生活で、誰かが何かをやってくれる。芝浦は頭がよく、子供の頃から社交界での成功が約束された人間だ。誰かが何かをしてくれるのは当然のようになっていて、今までそれに疑問を抱いた事などなかったのだろう。
 だが手塚と連み、自分が存外世間知らずだという事を否応なく気付かされたに違いない。

「別に飯が作れなくても俺が将来やる仕事には関係ないっていえば関係ないんだ。だけど、このまま何も出来ない大人になるのって、金持ちのボンボンが七光りのままって感じするだろ? そうじゃなくて、一人である程度の事が出来て、もっと考えてちゃんと出来る大人になりたいんだよね」

 芝浦は確かに金持ちのボンボンで世間知らずの所があるのだが、まさかそれを気にしているとは思わなかった。

「たしかに、一人暮らしは社会経験にもなる。悪い事ではないだろうな……」

 相づちをうつ手塚の口に、じゃりじゃりと鈍い音がする。卵の殻がまだ残っていたようだ。
 一人暮らしは悪い事ではないが、卵の殻すら割れない男が急に一人で暮すのは少し心配なのもまた事実だった。
 それに芝浦は財布に小銭や札束はいれず、何でもカードだけで買おうとする所がある。

 もし家族に「一人暮らししたい」といっても資産家である芝浦一族の御曹司だ。
 オートロックマンションに最高級の家具、家電を兼ね備えた召使い付きのタワーマンションを与えられる……という事も充分にあり得るし、そうなったら彼の望む「社会経験」は得られないだろう。
 そもそも、そんな箱入りの御曹司を軽率に一人暮らしさせるはずがない。

「そうだよな、そう思うよな……でも、オヤジは俺を絶対に外にだそうって思わないし……、いざ一人暮らしするぞ! ってなっても、何をしていいのか解らなくなりそうで、結局部屋にゲーミングPCでも作って閉じこもっていそうなんだよな。それだったら、今の生活とあんまり変わらないって言うか……」

 と、そこで芝浦は何か閃いたような顔をする。

「そうだ! 手塚、あんたの家に居候させてくれよ。それだったら、俺でも何とか出来る気がするし。そこから一人暮らしをする手はずを整えれば、俺でも何とかなると思うんだけど……ダメかな?」

 急に何をいってるんだ。危うくその言葉が出そうになる所を留めた手塚の脳裏には、死の運命に反逆するためという理由で秋山蓮の住まいに押しかけた「夢での自分」が重なっていた。
 きっとあの時の秋山連も、こんな風に困惑したのだろう……傍から見たら自分勝手な言い分で無理矢理押しかけて、そのまま泊まり込みで生活するようになって……。

 あの夢のような記憶が事実だったのか。
 秋山蓮という男が実在するのか、今となっては解らない。(少なくとも手塚は、あの時夢で見た喫茶店も、秋山蓮という男にもまだ出会っていなかった)
 だが困惑しながらも受け入れてくれた彼らの事を思い出すと。

「ダメかな、やっぱり」

 不安げに首を傾げる芝浦を無下に扱う事などできなかった。
 手塚はその顔をのぞき込むと、今は物置同然にしている開いた部屋の扉を開ける。

「この部屋は使ってないから今は俺の荷物置き場だ。6畳程度の、お前にとっては狭い部屋だろうがそれでもいいなら自由に使え。そのかわり、掃除や片付けは自分でやるんだぞ……最初から居候するつもりでなくても、そうだな。週に何度か遊びにきて、泊るための部屋として使ってもいいからな」

 手塚はそう言い、芝浦の方へ合い鍵を投げて渡す。
 すると芝浦は嬉しそうに笑うのだった。

「いいのかよ! ありがとな、このお礼は出世払いで! タダとはいわないから。いつかもっと俺が偉くなったら、この100倍すげー部屋をお前にプレゼントしてやるから!」

 剛気な事を言うが、今は100倍広い部屋より芝浦が「生きていく」こと。
 未来のある若者で、生きて出世払いなんて将来の話をしてくれる事が、手塚は嬉しかった。

「期待しないで待ってるぞ」

 手塚はそう呟いて、微かに笑う。
 その笑顔には殺し合う訳でもない、互いに手をとり歩く事の出来る未来がある事に、密かな感謝の意味が込められていた。 
posted by 東吾 at 21:41| 龍騎とか