2019年02月21日

×××市に住む×××さん。

久しぶりにオリジナル作品を書いてみたくなり、書いてみました。

いわゆる「霊媒」的な。
呪いなどを「祓う」仕事をしている「×××市在住の×××さん」の話です。

ホラーテイストの。
不思議な感じにできてれば、いいなぁ。

と、思ってます、はい。
不思議系の「どっちかわからないひと」好きですねぇ……この子は女の子ですけどね。
「×××が暴く呪いの渦中」

 いつしか、その撮影所は「呪われている」と言われた。
 最初はそう、出演者の俳優がまだ40代という若さで病死した事が切っ掛けだったろう。

 あんなに若くして死ぬなんてねぇ。
 健康診断も問題なかったって聞いてるんだけどねぇ。

 誰もがそんな事を暫くしたが、葬式が終り、四十九日が終ればもうすっかり無かった事になった。
 元より亡くなった俳優がバイプレイヤー……脇役だったという事もあったのだろう。
 また、その撮影所で撮られているドラマが長年続く人気シリーズである、というのもあり、長年やっていれば人だって死ぬ事もあると、誰もがそう思っていたのだ。

 だがそれから間もなく、脚本家が倒れた。
 脳梗塞だか脳出血だか、とにかく頭の血管が破裂したか詰まったかでそのまま息を引き取ったらしい。

 それでもドラマの人気が落ちる事はなかった。
 だがそのドラマに出た俳優は、やたらとケチがつく事が多くなっていった。

 ライバルとして現われた女優は、程なくして息子が暴行事件をおこし釈明会見に追われ、暫く謹慎する事となった。
 主演の相棒として扱われていた俳優は、程なくして大麻所持疑惑により逮捕され現在は芸能界を引退している。
 新シリーズから新たな上司役として抜擢された俳優は、抜擢され数ヶ月後突然死した。死因は今をもってなお不明である。

 立て続けにおこる死や病、不祥事。
 それ以外にもこの撮影所、そしてこのドラマの関係者は病気や熱にうなされる事や、大きなアクションがなくとも怪我や骨折をするものが多かった。
 実際に主演俳優さえ、劇場版の撮影中に事故を起こし骨折をしている。
 人気ドラマであり、また長期のシリーズでもあったが 「あのドラマの撮影は良くない」「ゴシップがつくならやらないほうがいい」「あの撮影所では事故が多い」 そう、まことしやかに囁かれるようになったのだ。

 呪いだ。
 祟りだという噂も出た。

 何度か神社、仏閣で拝んでもみたが、効果は現われなかった。
 幸いに今の所主演や、監督といったメインの登場人物たちには大きな災いがおこっていなかったが……。

 ……シリーズも10年を過ぎようとしている。そろそろ何か起るのではないかとスタッフの中でも囁かれた頃。

「それなら、×××市に住んでいる、×××を頼ってみたらどうですかね」

 アシスタントディレクターか、それとも仕出し屋だっただろうか。
 この現場にきて2,3度顔を見せたっきりぷつりと消えた男が、名刺だけをおいていった。  

 ×××などとは聞いた事のないものだが、まじないか、霊媒か、そういうのをやるのだろう。
 当てにしていた訳ではないが、いわゆる「本格的な除霊」のような事はしてこなかったから、一度くらいいいだろう。

 このシリーズを続けていきたいし、話の種にもなる。
 そんなこんなで、その撮影所に×××はやってきた。

「こんにちはー、うわー、ひろいですねー、さつえいじょ! ぼくは、こういうところはじめてだから楽しみです!」

 現われたのは、青年にしては小柄。だが女性にしてはやや背の高い、愛嬌のある顔立ちの……恐らく、女性だった。
 いや、性別は正直よくわからない。
 声はやけに高い気がしたが、服もトイレも男性用を使っていた気がする。
 それに顔立ちも中性的だし、体つきもまだ子供のように思えたからだ。

 ともかく×××は室内に入ると開口一番。

「うわー、呪われてますねぇー」

 そういって、コロコロ笑うのだった。
 そしてぐるりと見渡すと、ぱんと手を叩いて。

「でもたいした事ないんで、ちゃちゃっとやっちゃいますね。蓄積された恨み辛み嫉みその他色々の感情がどっさりありますけど、全て個人レベルのものですからラクショーです!」

 それから×××は、自分でもってきた酒や米、塩の他に、変わった形の石やら、何か宝石の原石と思しきもの、そして何につかうかもサッパリ分からない道具などを集めてきた。

「都会はなんでもすぐ買えるからいいですねぇ、×××市だとこうはいかないから、モノを買うのに手こずるんです。通販で、3日とかかかるんで」

 通販を使っているんだな。

「Amazon便利ですよね」

 Amazonなんだな。
 なんて、今になるとそんな他愛もない会話はよく思い出されるのだが、実際に×××がそれらの道具をどう使って、それからどうしたのかは、はっきりとは覚えていない。

 何となく、文字を書いた木をジェンガのように並べて燃やして。
 それからあちこちを箒のようなものではいて回って。
 それから、ヒトガタのようなものに名前をかいて……というぼんやりとした記憶はあるのだが、はっきりと「何をした」というのを覚えているのは、誰もいなかった。

 ただ、ハッキリしている事が一つあった。

「おわりましたよー、はい、これでスッキリです」

 ×××は自分の手を水道でじゃぶじゃぶ洗いながら、相変わらずの笑顔でそう告げた時、撮影所全体に漂っていた霧のような靄のような。
 とにかくいい知れない黒い淀みのような何かが晴れて、明るくなったような気がした、というのが全員の共通認識だった。

 ただ一人を除いて、だが。

 彼女は長年ここのスタッフだった。
 肩書はアシスタントディレクターか、それとは違う名称をつけていたかもしれないが、概ね雑用ばかり回されていた立場だろう。
 どうにも容量が悪く、撮影所の空気にもなじめずにいたので、そういう役回りを何年も何年も続けてきた、そんな女性だった。

「……あなたが、災厄の渦」

 ×××は、そう言った。
 彼女は、声を荒げて×××に向かって行く、その姿はまるで獣でも取り憑いたかのようだった。

「そうよッ、私が呪った! この会社全部、撮影も全部、潰れてしまえ、壊れてしまえ、私をみとめないのは……」

 呪詛のような言葉は、どこか幼稚で薄っぺらく思えた。
 きっと彼女は自分が特別な人間か、可愛そうな人間と思っていて……それでいて、努力しなくとも誰かが救ってくれると思っている。
 そういう類いの心を抱いたまま、成長を忘れていたのだろう。

 だが世間はそうじゃない、仕事ができないと置いていかれる。
 特に成果主義のこの業界では、それが如実だった。

 自分より後からやってきて、自分より花形の撮影班をしている相手など憎くて仕方なかったことだろう。

 怒りに満ちた女性の顔は、まさに般若のそれだった。
 そしてその顔を見て、そういえば般若の面は女性の、鬼の面だったかとそんな記憶を思い返していた。

 だがそれでも、×××は笑う。コロコロと、楽しそうに。
 かとおもうと、不意に冷たい目をして、告げた。

「あなたは、してはいけない領域に入ってしまった」
「何よ! あんたなんて×○×△△」  

 聞くに堪えない罵詈雑言を前に、彼女は冷めた眼をしていた。
 それは悲しむような、哀れむような目だったのだろうか。

「あなたは、安易に入ってはいけない領域に手を染めた。ケガレの×××は、決して万能でもなければ従順でもない。行き場をなくした×××は、あなたのところに戻ってくる。そう、それはよく呪いといわれ、祟りといわれる……人を呪えば穴二つ、なんていう奴だよね」
「何を、言って……」
「残念なことは、一つだけ。あなたは【自分が呪われてしまった事】に、死んでも気付けないこと」

 その刹那、ガァンという鈍い音がした。
 何処からか大判の鉄板が紙っぺらのようにとんできて、あっという暇もなく彼女を押しつぶしてしまったからだ。
 あたりに血の臭いが漂って……警察だ、消防だ、いや救急車だ。そんな声が響き渡って……。

「災厄は、これで終わり。渦がなくなって……ケガレは、ぼくがもっていく」

 ×××が手をかざした時、黒くざらりとした「ナニカ」が×××に取り込まれるような光景が見えたのだが、今となってはそれも、定かではない。

 ともあれ、それから撮影所は概ね平穏を取り戻していた。
 以前のような事故はないし、新しいスタッフも定着するようになった。
 一度あった悪評はすぐに回復はできないだろうが、最新作のドラマも順調だ。

 だがやはり、気になる事がある。
 それは、スタッフの誰もが日に日に×××のこと。
 そして「呪い」をおこしていたスタッフの名前や顔を日に日に忘れていってしまうという事だった。

posted by 東吾 at 00:19| 創作駄文