2019年02月15日

好きってどういう事だろうと聞いてみるフレートくんと色々あるよねヤマ。

本質的に人を好きになった事がないから
「好きってどういう事?」「どういうのが好きっていうんだろう?」「どういう気持ち?」
とわりかし真面目に考えちゃうアルフレートと、「そこはゆるーく、ふんわりいこう、ふんわり」みたいな感じの達観してるけど、でもアルフレートは溺愛してしまうヤマムラ=サンというバカップルの話です。

二人はバカップル。
そういう事も……あっていいじゃないか、なぁ……。

あるのだ! いいか、あるのだ、自分を信じろ!
「君の疑問と俺の答えと」


 アルフレートは聡いのだが、時々妙に常識がないとでも言うのだろうか。
 少しばかり変わった質問をしてくる事がある。

「ヤマムラさん、人を好きになる時……とか、あぁ、愛しているんだ……っていう気持ちって、どうやったら分かるんですか?」

 その日も突然、そんな質問を投げかけてきた。
 アルフレートはこれでかなり生真面目な性格だから、冗談で質問している訳ではないのだろう。
 だから俺も茶化すような事はせず、いつも考えて答えを出している。

「そうだなぁ、人を好きになる時の気持ち……ってのは、つまり、『あぁ、自分は相手の事が好きなんだ』って実感するような気持ち……って事でいいか?」
「あ、そうですそうです。その……どのラインから『好き』と言えるのかなぁ、と」

 どのラインから、というのはいかにもアルフレートらしい質問だな、と俺は思った。
 きっと「手をつないだら」とか「キスをしたら」「肉体関係があったら」みたいな線ひきがないと据わりが悪いのだろう。
 だが事に人を好きになるという感情に対して、そういうラインは難しいものだ。

「君はそういうが……そういうのは、人によって違いがあると思うな、俺は」
「そういうものなんですか? キスしたいと思ったら好き、とか……そういう感じではなく」  

 アルフレートはボウルに入れられたピーナッツの皮をむきながら、そんな風に呟く。
 やはりそういう肉体的なふれ合いが、アルフレートの「ライン」なのだろう。

「確かに、キスしたいとか、性欲を抱くというのも、好きだとか愛しているというラインには入ってるだろうなぁ」
「……ですよね。逆にいうと、キスしたいとか、えっちしたいと思わなければ、好きじゃない」 「そうかな……俺はそうとも言い切れないな」

 俺はボウルの中にあるピーナッツの殻を割り、中身だけをボウルに入れながら続けた。

「たとえば……そう、恋をする相手を最初、ひと目みた時から性欲を抱いたり、キスをしたり……そういう感情になる訳じゃないよな」
「それは、まぁ……そうですね」
「そして、キスをしたい、セックスをしてみたい……そう思ってしてみた後、急速にその気持ちが冷めていく、という事も……まぁ、あるだろう」
「ん……うーん……そう、かもしれません。ただ……手に入れてみたいと思っただけ。そういう時は……そう、なるかもしれませんね」

 アルフレートは何か語りづらそうな自分を誤魔化すように、ピーナッツを一つ口に放り込んだ。……ただ、手に入れてみたいと思ったから仕掛けてみた事があるのだろう。
 アルフレートほどの美貌に耳障りのよい言葉があれば、それが愛のない空虚な甘言でも効果があるに違いない。

「しかし、そうして……急速に冷めてしまうものが、いわゆる恋愛感情と同じかというと……いささか疑問に思うな。俺は……これは俺個人の感情だが、それは恋愛というより支配欲、独占欲のようなものに思えるんだ」
「は、はい……そう、ですね」

 アルフレートはやけに口数が少なくなったが、ここはあまり突っ込まないでおいてやろうと思う。若気の至り、というのは誰にでもあるものだ。

「……そうなると、好きになるというのはどういうあたりからか、と言われたら。やはり、人それぞれだと思うんだよな、俺は」

 そうしてまたピーナッツの殻を割り、中身をボウルにうつす。
 アルフレートはボウルの中にあるピーナッツの薄皮をむいて、それを口にいれた。

「うーん……ちなみに、ヤマムラさんはどういう感じになったら相手の事を『好き』あるいは『愛してる』と認識するようになるんですか?」

 もう殻を割るピーナッツはない。
 俺は砕けた殻を一つにあつめながら、「そうだな」といいつつ考えた。
 俺はどういう時に好きだ、と思うのだろうか。

「……まだ子供の頃は、相手がいると気恥ずかしいような心持ちになって顔が赤くなったり、胸が早鐘のように鳴ったりしていたが、そういうのが恋という感情だと気付いたのはずっと後だな」
「今は、そういう感じにはならないんですか?」
「はは……どう思う?」

 俺はわざと言葉を止めて、アルフレートの顔をのぞき込む。
 アルフレートはすぐに顔を真っ赤にして 「知りませんよ」 とそっぽを向いた。
 そういう所が、本当に可愛いと思う。アルフレートは本心を隠しどこか仮面を被って道化を演じているような素振りも見せるが、まだ心のどこかに「純粋で可愛い少年」の部分をもっているんだろうと、改めてそうおもった。

「……そうだな、俺ももう、そんな心が揺り動かされるような日々はないと思っていたが……今でもあるよ。相手が傍らにいないと思うと寂しい気持ちになったり、普段見せない表情を見せると心臓がいつもより早く鼓動して、頬や身体がやけに熱っぽくなる」
「そ、そうなんですか……?」
「はは、意外だろ? ……いや、自分でも意外なんだ。俺ももういい歳だ。故郷では人生50年なんて言ったが、それなら死ぬ方が近い歳だ。それだっていうのに未だにこう、たった一人の一挙手一投足に目がいってしまうような気持ちがわき上がるんだからな」

 アルフレートは上目遣いでこちらの様子を伺う。
 それは誰なんだ、どんな人なんだろうと疑惑を抱いているような表情(かお)だった。
 そんな心配そうな顔をしなくても、俺がそう思うのはただ一人だけだというのにその目はいつも伺うような、確かめるような目をしている。

「それじゃぁ、いつもそう……思える人が、好き……愛してる人、なんでしょうか」

 アルフレートの言葉に、俺は笑って見せる。

「いや、いつもそうだと流石に心臓が持たないだろ。うん……そうだな、最初はふとした仕草や行動、話や素振りなんかで鼓動が早まったり、赤くなったり……そういう気持ちがわき上がることもある。だけど、もっとそう……落ち着いて、改めて気持ちを振り返った時に……一緒にいると、安心できて……幸せだな。とか……一緒にいれて、よかったと。そう……思える相手が、好きな相手……愛している人、なんじゃないかと……最近、俺はそう思っているよ」

 アルフレートは真面目に俺の顔をみると 「そうかぁ」 と呟いて。
 それから小さく 「それなら、私はやっぱりとっくにそうなんだ」 と漏らした事を、俺は聞かないふりをした。

「さて、俺はそろそろ寝るけれども、アルフレート、君はどうする?」
「えっ、私ですか」

 驚いて顔を向けるアルフレートに、俺は精一杯の笑顔を作る。

「……君がそばにいると安心するからな」

 一応、そのつもりでかけた言葉だが、きちんと伝わっただろうか。
 あまり笑顔をうまく作れる性質ではないが、きちんと笑えていただろうか。
 そう思う俺を前に、アルフレートは見る見るうちに真っ赤になると。

「は、はい……あの、私も。あ、安心して……一緒にいれて……しあわ、せ……です」

 絞り出すような声でそう言いながら俺へと手を伸ばすものだから、俺は思わずその手を引いて、その身体を抱きしめていた。
 あぁ、何てアルフレートは可愛いのだろう。そして愛おしいのだろう。
 永遠なんてものはない、いつかは別れる定めであるのもわかっている、だけど。それでも。

「……そうか、それなら……一緒にいてくれ、今だけでもいい。俺のそばに」
「は、はい……」

 俺は愛しい金色の髪を撫で、その額にキスをする。
 かなうならこの幸福なキスを、1日でも長く続けられるように祈りながら。
posted by 東吾 at 10:44| ブラボ