2019年02月10日

ガースーに食事に誘われたヘーンーのはなし。

ガスコインに食事に誘われてちょっとテンションがあがっちゃうヘンリックお爺ちゃんの話です。過去話だからまだ「ヘンリックおじさん」くらいのはなしかな?

ガースーとヘーンーが普通にナチュラルに付き合ってるような感じ。
そんなBLです。
ガースーは頼れるヘンリックも好きだけど油断して狼狽えるヘンリックも大好き。
そんないたずらっ子だよ。悪戯おじさんだよ。オッサンがイチャイチャしてるんだよ。

だがそれがいい。
という訳でどうぞ。
「いつもと違う雰囲気で」

 ヘンリックは緞帳のように暗く、黒い雲を見て空にむけ手をかざす。
 まるでそれを待っていたかのように、ヘンリックの手には白い雪が一片舞い降りてきた。
 寒いと思ったが、いよいよヤーナムにも雪が降る季節になったらしい。

 全く、こんな寒い日に相棒は何をやってるんだ。
 そう思ったが、そもそも自分が予定より30分ほど早く来ていたのだから、自分が悪いだろう。
 こうなったらガスコインが遅刻してこないのを祈るばかりだ。

 しかし、狩装束でない姿でガスコインに会うのも久しぶりだ。
 ガスコインが、仕事の報酬そのサービスでレストランのディナーに招待されたというのだが、ドレスコードのある店らしく普段のようなカジュアルな服装では出入り口で追い返されてしまうという。勿論、血濡れた狩装束なんて「論外」だ。

 そんな訳で、ヘンリックは久しぶりに正装をして待ち合わせをする事になったのだ。
 普段から情報集めや顔繋ぎに金持ちが道楽でする晩餐会に顔を出したりするため正装を持ち合わせていない訳ではなかったが、相棒の前で正装するのは初めての事になる。
 ガスコインは目がはっきりと見える訳ではないが、何かにつけて事細やかに気付く男ではあったから「妙な所はないか」とか、「隠し武器が必要以上に目立ってはいないか」なんて、細かい事がどうにも気になってしまうのだ。

 それに、ガスコインとドレスコードのある店に入る事そのものが初めてだ。
 果たしてどんな事になるのだろうか、粗相がないといいが……。

(なんて、ダメだな。俺が浮かれてる……)

 雪はさらにちらつき、街のガス灯に火が灯る。
 そろそろ来るだろうかと思っていれば、闇の中から黒いコートをまとった男がドタドタ足音をたててこちらへとやってくる姿が見えた。

「悪ィ! 待たせたなヘンリック」

 ガスコインは立ち止まると、肩で呼吸を整える。
 相等急いできたようだ。

「いやァ、ドレスコードで正装って、そんな服もってねぇからオーダーにしたら高ぇし着づらいし、いつもと勝手が違うからえれー時間かかっちまってな、遅くなって悪ィ」

 そうして聞かれる前にアレコレ大変だったアピールを始める。
 だが、時計を見れば時間通りだ。

「心配するな、ちょうど待ち合わせの予定通りだ」

 時計を見ながらそういうヘンリックを前に、ガスコインは首を傾げる。そして幾度か「そうかァ?」「本当にかァ?」と呟いてから、ヘンリックの肩にうっすらつもりはじめた雪を払ってみせた。

「俺ぁ、おまえの身体に雪がつもってるからてっきりすげぇ遅刻してきたんだと思ったぜ」

 そして屈託なく笑う。
 それは暗にヘンリックが予定よりずっとはやくこの場にきていたのを悟られていた事にもなる。

「ははッ、あんまり気のない風に見えたからこういう食事の席は嫌いかと思ってたけど、こんなに早く待っててくれるほど楽しみにしてくれたんだな。それとも、俺だから楽しみにしてくれたのか?」
「うるさい! 行くぞ。ここにいても寒いだけだからな」

 これ以上ここで立ち止まってたらただからかわれるだけだ。
 そう思い歩き出すヘンリックの後ろから、ガスコインは突然抱きついてみせた。

「……おい、ガスコイン何してるんだ。お前とじゃれてる時間はないぞ」
「んー、いや、おまえ、香水変えてるな、と思って」
「当然だろう……獣を狩る時の香水と、人と会う時の香水くらい変えるさ。匂いがきつくて他の客が料理を楽しめなくなったら本末転倒だろ」
「そうか、なるほどなァ」

 ガスコインはそこで急に歩幅を広げるとヘンリックより僅かに前に立つ。
 かと思うと不意に振り返ってヘンリックの肩を掴み、その唇を重ねた。いや、それはキスというより犬が親愛をこめてするように唇を舐められた、というのが正しいだろうか。

「なぁっ、何するんだお前!」

 思わず赤くなって飛び退くヘンリックに、ガスコインはカラカラと笑うと。

「いや、おまえ唇の味も違うかなと思ってよォ。口紅変えた?」

 などと宣うのだ。

「バカか。俺は最初から口紅なんてつけた事がない」
「あはは、そうだったそうだった……なーんて、ほら気楽にいこうぜ。なんかお前緊張してるように見えるからさ」

 そうしてガスコインは鼻歌交じりで先を歩く。
 全く、誰のせいでこうなったと思っているんだ……。
 ヘンリックは内心そう呟いて、ストールで口元を隠す。

 そんな中でも、雪は静かに降り続いていた。
posted by 東吾 at 11:30| ブラボ