2019年02月05日

爪を噛む癖のあるアルフレートと、

小さい頃からストレスがたまると爪を噛んでしまい爪が……ない!
そんなアルフレートくんと、「わーつめがない、何とかしなきゃ」と思ったヤマムラさんのハートフルストーリーです。

こう、爪を噛むのは危険らしいですね。
完璧主義者に多い説とかもあって、アルフレートくん噛みそう……感を頭でなく心で理解しました。そうじゃなくても噛みそう引っ掻きそう 「私のものですよ」 っていいそう。

※個人の感想です。

内容はエロくない健全なBLなので大丈夫です。
健全。
「爪」

 自分の手を天にかざして、アルフレートはぼんやりとその指先を見る。
 ささくれだった指先には、薄紅色の爪が綺麗に磨かれていた。

「やっと、綺麗に揃ったな」

 隣にいるヤマムラが、嬉しそうに笑う。
 それはまるで自分の事のように喜んでいるような笑顔だったから、アルフレートも何だか気恥ずかしくなりはにかむように笑っていた。


 ……アルフレートには、子供の頃から爪を噛む癖があった。
 小さい頃の記憶は、男の客をとり部屋の片隅に……時には竈の中に追い遣られて暗い中、軋むベッドの音と知らない男を前に裸になり淫らに喘ぐ母の姿を感じ取っていた時だ。
 ただその姿を見るのが恐ろしく、そして汚らわしい事のように思えて、アルフレートは震えながら自分の爪を噛んでいた。
 いつも指はボロボロで、その指を見て母はよく「みっともない」だの「汚らしい」だの言いながら、幼いアルフレートを叱ったものだ。

 家を出てからも、アルフレートの爪を噛む癖は直らなかった。
 それでも幾分かマシになったが、横暴な相手を見て苛立ったり母の面影に似た女を見ると殆ど無意識に爪を噛むようになっていた。

 親指の爪がボロボロになり殆ど剥げてしまえた人差し指の爪を、それもダメなら中指の爪を。
 片手の爪を噛みつくしてしまったら、左手の爪を。
 その頃に新しい爪がはえてきたら、またそれを……。

 そんなサイクルで殆ど毎日爪を噛むようになってから、その籠手の下は人に見せられないほど傷ついていた。

 とはいえ、処刑隊の籠手はそれだけで武器になるような代物だ。
 人前で脱ぐ事もない。この爪を見るものも居ないのだろう。
 そう思って爪を噛む癖はそのままに生活をしてきたのだが……。

「どうしたんだ、アルフレート。その爪は」

 たまたま掌を怪我した時、その治療のために籠手を外せばヤマムラがその爪を目聡く見つけた。
 いや、ヤマムラじゃなくてもきっとすぐに異常には気付いただろう。
 その頃のアルフレートは毎日爪を噛んでいて、殆どの爪が無くなっていたからだ。

「あぁ、これは……えぇと、何でもないんです」
「何でもないはずがないだろう、爪が全部ボロボロだ……全部自分でやったな? 誰かに傷つけられたものじゃない」
「んぅ……えぇと……あー……はい、そうですね……私、その。爪を噛む癖が……なおらなくて……」

 しどろもどろにそう告げながら、アルフレートは俯いてしまう。
 ヤマムラに何か言われるのではないか、説教や忠告だったら面倒くさいと、そう思ったからだ。
 案の定ヤマムラは少し怒ったような表情になるとアルフレートを見据える。
 そして俯くアルフレートに。 「顔をあげろ」  というものだから、アルフレートはしぶしぶ顔をあげた。

 何を言われるのだろう、面倒くさい説教になるのはイヤだ。そんな事ばかり考えていたのだがヤマムラは少し頬を膨らませるとアルフレートの額をポンとつついた。
 そして存外穏やかな声で。

「めっ! ……ダメだろ、こんな風にしちゃ。ちゃんと治さないとな」

 そんな風に言うもんだから、アルフレートは拍子抜けしたやら何やらで、ついクスクス笑っていたのだ。

「笑い事じゃないぞっ、爪は大事にしないと、武器をもつ力も弱くなるし何より病気になりやすくなるんだからな。とにかく今日から治療をはじめる。輸血液ではこういうのは治りにくいからな」

 その日からヤマムラはアルフレートの手を常に気にしていた。
 爪を噛まないようにジャーキーのような硬い食べ物を常に持ち歩き、それを噛むように指示した。
 指先にはしっかりとテーピングをし、「もし舐めたり噛んだりしてもそれを続けさせないために」という名目で、酷く苦い薬を塗った。

 こんな事をしても、何の役に立たないかもしれない。
 ヤマムラはそう言いながらアルフレートの手を寝る前にマッサージしクリームを塗った後、最後の仕上げに。 「爪が綺麗にはえてくるように……」  祈るように呟いてその指先にキスをする。

 この行動に何ら効果があると思えなかったが、それでもアルフレートは「そうされる事」が嬉しかった。
 自分の身体を、壊れたこの指先を真剣に治したいという思いが。自分に視線が向けられている、その気持ちが自分にあるという事が、ただただ嬉しかったのだ。

 そうして長い時間を費やして、ようやくアフルレートは自分の爪を取り戻した。

「綺麗な爪に戻って、俺も嬉しいよ」

 満足そうにアルフレートの手を見つめると、ヤマムラは穏やかに笑う。
 まだ苛立った時に爪のかわりに噛むジャーキーは必用だったが、それでも以前よりかみ癖は落ち着いていた。
 恐らく、ヤマムラが心配してくれているという事実も幾分かアルフレートの癖を抑止しているのだろう。

「えぇ、おかげさまで苦い薬を塗らなくても住みそうです」

 アルフレートは嬉しそうに笑ったあと、不意に顔を赤くして 「でも……」 と、言葉を続ける。

「でも、あの……寝る前に、私の指にキスをするのは……続けていただけませんか? あの、私も……しますから……」

 そんなアルフレートの頭に手を伸ばすと、ヤマムラはただ愛おしそうにその髪を撫でる。
 そして恭しく礼をすると。

「お望みならいつでも、坊ちゃん」

 等と、ふざけてそういうのだ。

「なぁっ、わたし、子供じゃないですから」
「ははァ……俺からするとまだまだ子供だ……が、そこがとても愛おしい」

 ヤマムラはそう言いながら、アルフレートへ手を伸ばす。

「行こうか、手を握ってれば爪を噛む事もないし……今は君のその手に触れていたい」
「あっ……はい、はい」

 アルフレートはその手を強く握りしめた。
 永遠ではないだろう、だがひとときの幸福を、心で幾度も噛みしめながら。
posted by 東吾 at 11:43| ブラボ