2018年07月28日

あらしのよるのヤマアルだよ。

慣れない山のなかの嵐でポンコツになっちゃうアルフレートが食べちゃいたいくらいかわいいヤマムラのはなしだよー。

何かこう……。
いつものBLまた書いてんな! って感じあるかもしれませんが、もう芸風だと思って諦めてください。

どんどんヤマアルを君たちのハートに染みこませていこうな!
「山小屋の一夜」

 山に隠れ住む獣の病の罹患者を追いかけて、中腹までさしかかった頃だろうか。
ヤマムラは不意に立ち止まると鼻をしきりに動かし周囲のにおいを気にするような素振りを見せ始めた。

「どうしたんですか、ヤマムラさん」

 汗を拭いながらアルフレートも周囲の様子を伺う。
 新緑眩しい山の緑はどこまでもどこまでも続いている。こんな静かで穏やかな山に果たして病の罹患者が潜んでいるのだろうか。潜んでいてもどういう生活をしているのだろうか。

 そんな事を考えながら進んでいたアルフレートに対して、ヤマムラの表情は真剣そのものだった。
 彼はすこし開けた道まで出て空を果てまで見通すと、何かを確信したようにアルフレートの元へ向かう。そして。

「……アルフレート、あと数時間で一雨くるそ。それもかなり強い風をともなって……あぁ、嵐になると思っていい。山小屋でも洞窟でも、雨風をしのげる場所を探さないといけなそうだ」

 急にそんな事を言うものだから、アルフレートは「まさか」と思って空を見た。
 抜けるように青い空は大きな白い雲が漂っていて、まさに夏の空といった様子だ。とてもこれから大雨がくるような……少なくても嵐がくるような天気には思えない。

「ヤマムラさんの勘違いじゃないですか?」

 どこか脳天気にそう問うが、ヤマムラの表情は真剣そのものだった。

「いや、勘違いじゃない……最も確信できる材料も少ないんだが、雨のにおいが濃くなってきて、風向きも変わった。山の天気は変わりやすい。どこか雨風をしのげる場所か、せめて身を隠せる場所を探さないと酷い目にあうぞ」

 そう言われ、アルフレートは来た道を思い帰す。
 普段猟師もあまり立ち入らないというこの山だが、ふもとの話では随分前からうち捨てられた炭焼き小屋があると聞いた。

「……そういえば、炭焼き小屋の話を聞きました。でも、うち捨てられて長いからどんな風になっているかわからない、って」
「炭焼き小屋か……悪くないかもしれないな、どの辺りにある?」
「もうすこし、下った所だったと思います。途中獣道が別れている所に、建物らしい影を見ましたから……あまり、手入れはされてなさそうでしたけど」
「よし、それならすこし戻るか。もし手頃な洞窟や建物を見かけたら声をかけてくれ」

 ヤマムラはそう告げると、来た道を戻り始める。
 アルフレートは半信半疑のまま、戻り始めたヤマムラの後をついていくしかなかった。

 勝手に一人で山登りをできるほどアルフレートは森を熟知していないし、もし一人で獣と遭遇した時、生い茂る葦や木々はアルフレート愛用の武器である石槌とはあまり相性がよくないと思っていたので、ヤマムラとの共闘が必須だと感じていたからだ。

 かくして山を下りはじめた時、「よもやこんな良い天気なのに雨なんか」と思っていたアルフレートの予想はすぐに覆された。
 それまで一片の曇りも亡かった青空はみるみる鉛色の雲に満ち、アルフレートの鼻先にぽつりと冷たい水滴がつく。
 雨が降ってきたのだ。

「わぁ……ほ、ホントに雨が降ってきましたよ? よくわかりましたね、ヤマムラさん」
「だから言っただろ、雨のにおいが強くなってきたと……とにかく、炭焼き小屋まで急ぐぞ。アルフレート、場所は」
「あ、あとすこし歩いた先です、あの獣道の向こうです」

 アルフレートが指さした先には、レンガ造りの、だが崩れかけた炭焼き小屋が建っていた。長らく誰も使っていないという通り、暫く人の出入りがあったようには見られない。
 ぐるりと周囲を見てまわれば、ドアは朽ち果てて壊れ天井も半分ほど穴が開いてる有様だが、それでもまだ屋根が残っているぶん外にいるよりはマシに見える。

「……何か、思った以上に酷い有様ですね」
「仕方ないだろう、だがレンガ造りなのは有り難い……屋根の半分は壊れているがもう半分は何とか残っているし、俺たちは屋根がある方に身を寄せよう」

 壊れたドアを注意深く開けると、ヤマムラはすぐに屋根のある場所を陣取って崩れた床を寝れる程度の広さに片付け、土が露わになっている床に石を積んで火をおこす。
 そして、崩れた壁の様子を見ると 「これで防げるかわからないが」 そういいつつ、崩れかけのドアで開いた穴を塞いだ。

 アルフレートはあまりの手際のよさに、ただポカンとヤマムラを見て居るばかりだった。
 起こした火でスープを作るヤマムラを眺めながら、アルフレートは関心したように言う。

「すごいですね、ヤマムラさん! 雨が降るのが分かっただけじゃなく、こんなに手際よく寝床まで準備して……私、ただ見てるだけしかできなくてごめんなさい……でも、すごいです。慣れてるというか……」

 そう言うアルフレートを前に、ヤマムラは照れたように笑う。

「はは……俺は一人旅が長かったからな……雨がくるという感覚も、廃墟で一夜を明かすという事も少なくなかった……その時の知識が役に立っただけさ。あぁ……伊達に長く生きてないだろ」

 その笑顔は普段と変わらないヤマムラのものだったが、その言葉にアルフレートは自分の知らないヤマムラの時間を感じ、僅かに寂しさを覚えた。
 ……自分がヤーナムで血族狩りの狩人をしていた頃、この人は遠き極東の地からこの土地までやってきたのだ。
 その間、自分の知らない出会いや別れもあったのだろう。
 恋人などもいたのかもしれない。

「そう……ですか……」

 自分の知らないヤマムラがいるというのは何とも気持ちが落ち着かなくなるのだが、それでも過去の恋人関係を根掘り葉掘り聞くのは「重い」と思われるだろう。
 そうじゃなくてもアルフレートは自分の愛情が一途で、慕い何でも受け入れてしまうという重さがある事を知っていたから、あまり深くは聞かないようにしようと、そう思っていた。

 だがそう思っているだけでももう、気にしているという事なのだ。

「……はは、心配しなくても俺は道中、キミに語るような色恋の話はないよ」

 アルフレ−トの顔を見て、ヤマムラは淡く笑う。

「えっ? な、んで……へっ?」
「いや、何かこう……聞きたそうな顔してたからな。俺はキミが思っているほど人に好かれる性質じゃないし、こっちではこの黄色みがかった肌は異質だろう? ……こんな変わった身体の男積極的に愛してくれる奴はいなかったし……俺も、旅している頃はそれほど人恋しい日はなかったから……」

 ヤマムラは暖かなスープを差し出して、アルフレートを見る。

「俺をこんなに愛してくれたのは、多分キミが初めてだよ」

 その言葉は、暖かなスープよりアルフレートの心を満たしていった。
 だがそれも一瞬の事だった。

 突如吹き付けた突風は古い扉をまるで紙くずみたいに吹き飛ばし、激しい豪雨が風とともに舞い込んでくる。
 穏やかな夕食の時間は終わりを告げた。

「アル! ……こっちにこい」

 ヤマムラは驚くアルフレートの手を引くと、その身体を抱き寄せる。
 そして部屋の片隅に身を寄せ、普段は身につけない大きめのマントでアルフレートを庇うよう包み込むのだった。

「……思ったより持たなかったな。アル、今日は一晩こうして……せめてこの雨がやむまでは身を寄せて過ごす事になるが、かまわないか?」

 ヤマムラは申し訳なさそうに問いかけるが、アルフレートは嬉しく思えた。
 最愛のヤマムラに抱かれて一晩過ごすのだから、いやなはずがあるワケない。ましてや彼は自分を守ってくれるというのだから。

「か、かまわないです……でも、無理しないでください。私だって狩人ですから……ヤマムラさんを守る事だってできま……」

 そう言いかけたその時、空に雷鳴が轟き一瞬だけまるで昼間のような明るさが戻る。
 それから、轟音。どこかで雷が落ちたのだろう。

「ひやぁっ! あ、あっ……」
「……近くに落ちたな。何、心配する事はない、雷は高所にしか落ちない……と聞いてる。こんな小さな炭焼き小屋なら、雷が落ちる心配はないさ」
「は、はい、わかってま……」

 気を取り直して顔を上げようとすれば、再び空が青色に輝いて明るくなり、またどこかで激しい音がする

「ひやぁっ!」

 アルフレートは両手で耳を塞ぎ、ヤマムラのマントの中で丸くなってしまった。
 どうやらこの豪雨は雷もつれてきているらしい。

「……アル、キミは雷が苦手なのか」
「い、え。あの、別にそういうワケでは……ただ、この、外で雷と遭遇するのは初めてですし……」

 普段アルフレートの活動拠点はヤーナムが中心で、そこから離れる事は少ない。
 雨がふれば宿をとり雨がやむまでぼんやりとすごすというのが当たり前で、嵐の夜に外で過ごすといった経験がなかったのだ。

 それに、実の事をいうと「雷」というのは苦手でもある。
 青い閃光、激しい音は、子供の頃怒号を浴びせ罵倒をしながら殴ってきた、母の恋人たちから受けた虐待をどうしても思い出してしまうからだ。

 無意識に身体が震えるアルフレートを抱きしめると、ヤマムラは優しく微笑んで見せた。

「心配するな、俺は雷も慣れてるからな……このまま抱いていてやる。辛かったら俺の腕でやすめ」
「で、でも……」
「守らせてくれ、たまにはいいだろ? ……俺にカッコイイ所見せ場を譲ってくれても。ふふ……キミの前くらいでは、頼れる男でいたいんだ」

 そうして、ヤマムラは優しくアルフレートの身体を撫でる。
 二人はマントにくるまりながら、壁の端へ座り込み、吹き付ける雨と風、そして時々落ちる雷をまるで風景画のように眺めていた。
 それは二人が濡れないだけのスペースがあったからかもしれないし、雨風のとどかない場所にいられる安心感もあっただろう。

 だがアルフレートは隣にヤマムラがいる、という安心感が何より大きかった。
 ヤマムラがいてくれれば、何があっても……もし自分が死んでしまっても、それはそれでいいような心持ちがあったからだ。

「……本当にすごい嵐がきちゃいましたね」
「言っただろう? 殆どカンだったが……俺のカンはよくあたるんだ」
「私、一人だったらもっと山の奥までのぼってて、山の中で嵐と遭遇する所でした」
「そうか? キミを雨ざらしにしなくて良かった」

 二人は他愛もない会話を繰り返し、この豪雨を乗り切ろうとしていた。
 一人だったら孤独だろうが、二人なら暖かい。

「こういう豪雨は通り雨じゃないが、一時ふれば夜明け頃にはやむはずだからすこしの辛抱だぞ、アルフレート」

 ヤマムラの腕に抱かれたままそんな言葉をきけば、朝方すこし寝る事ができそうだと安心する。
 空全体を包むように青い稲妻が走れば。

「ひゃぁっ! あぁ……あぁ……」

 泣きそうになって怯えるアルフレートに「大丈夫だ」と囁いて、その額に口づけをする。
 多くふれ合うワケでもないがこの時間は幸福で……。
 アルフレートが雷の恐怖も、過去の痛みを忘れるのも、全てその暖かな腕のおかげだったろう。

 ……そうして気付いた時、アルフレートは床に一人寝かされていた。
 厚手のマントをかけられ、まるで宝物のように大切に包まれていたアルフレートは、昨晩の豪雨の最中ヤマムラの腕の中で眠ってしまった自分の失態に気付く。

「ヤマムラさん!」

 一晩ずっと自分を守ってくれていたのなら、きっと疲れているだろう。
 そう思い慌てて彼を探せば、すっかりはれた空の下背伸びをするヤマムラが見えた。

「あぁ、起きたのかアル」
「あ、はい……あ、あの、すいません。昨晩はヤマムラさんに頼りっきりで……」

 申し訳なさそうに頭を下げるアルフレートを撫でると、ヤマムラはその耳元で囁いた。

「本当の事をいうとね、俺も雷は苦手なんだ。身がすくんでえらく怖い……だけど昨夜は俺よりずっとキミの方が怖がってくれたから、随分気が紛れたよ……ありがとう、アル」

 そして「お礼だよ」と呟いてから、その唇に口づけをする。

「な、何ですかもう。何ですか……」

 すっかり赤くなりながら、アルフレートはヤマムラの手を強く握りしめる。
 豪雨の行った後は、空は青くすでに雨の気配はなくなっていて、二人を夏の日差しが照らしていた。
posted by 東吾 at 21:30| ブラボ