2018年07月18日

いつから好きになってたんだろうヤマアル。

急に「自分の事いつから好きになってたんだろう」って事が気になるアルフレートと、いつからだっけなぁ、と思い帰すヤマムラの話です。

バカップル惚気BLだよ!
たまにはバカップルをかかないと心が枯渇しちゃうからね!

ヤマアルは、バカップルも悲劇もメリバもいけるナイスカポ−ですぞ。
ハマらなくてもいいから覚えていってね! あわよくばその脳髄にすり込んでいこうね!
「呼吸するように自然なこと」

夏の日差しに負け逃げ込むように入った喫茶店で飲み終わったコーヒーカップを弄びながら。

「ヤマムラさん、いつから私の事好きだったんですか?」

アルフレートは不意に、そんな事を聞いてきた。

「いつから? いつから……いつからか……」

頬杖をつきながらすこし宙を扇ぎ、ヤマムラは今までアルフレートと過ごしてきた時間を思い帰す。

初めてあった時はいつだったろう、少なくとも一目惚れではないはずだ。
ただ、悪い感情は抱いていなかった気がする。
アルフレートは誰にでも気さくに話しかけてきたし、物腰の柔らかな青年がしかも若くて美しい顔立ちをしているのだから、何とはなしに「いい狩人だな」と……その位の気持ちでいただろう。

「うーん、一目惚れ。ではないな……最初あった時はキミは……今からしてみれば他人行儀に挨拶をして、カインハーストの情報を知らないか、と、俺に聞いたりして……うん、普通の狩人……いや、『良い狩人』だな、と思ったかな」

ヤーナムには狩人の技術をつかってそのまま強盗や追いはぎ、殺人なんてする輩も少なくはない。
また血に飢えてくるった狩人はとくに狩人を殺す事を喜ぶ。
そういった輩が多い中、初対面できちんと礼をする狩人、というだけでもヤマムラには珍しく思えたのだ。

……最も、その印象は次に会った時にはがらりと変ったのだが。

「ただ、そうだな……二度目にキミと顔をあわせた時は、別人かと思ったよ。うん……殺意の塊というか、敵意と憎悪、怨嗟、そういうのをまぜこぜにした感情で俺に立ち向かってただ……問答無用で襲いかかってきたんだもんなァ」

それを聞いて、アルフレートは恥ずかしそうにカップを撫でる。

「それは、えーと。その……す、すいませんでした」

そして消え入るような声で謝罪をすると、ヤマムラはその頭をポンポンと軽く撫でてなだめた。

二度目にアルフレートを彼と認識したのは、月のない夜だった。
相手は獲物を抜き、強い殺気を帯びて現れる。
その目を見た瞬間、話し合いは無いのだとヤマムラは理解し、すぐ獲物を抜いた。

『その武器、やはり血族の……』

ヤマムラが武器をとった時、アルフレートは納得したように石鎚を振り回し……ヤマムラは躊躇いつつ「いかにアルフレートを殺さないように立ち回るか」を念頭に戦っていたのは今でも覚えている。

最初にアルフレートと言葉を交わした時、直感的に「この青年は悪人ではない」と思った。
同時に「ひどく脆く歪んでいて壊れやすい」というような感覚……あるいは「壊れているのに無理をして笑っているのではないか」という不安感を抱いたのが、心に引っかかっていたのだ。

彼はここで死ぬべきではない、生きてやらなければいけない事があるはずだ。
そして、彼がやるべき事は自分を殺す事じゃない……。

そうして立ち回ったヤマムラに対し、アルフレートが憤怒の表情で。

『手加減ですか? ……私を見くびらないでください』

そう言って顔をあげた、あの鬼気迫る表情は今でも忘れられない。
切羽詰まっているような、爆発しそうな自分の気持ち、その行き場が分からないような、そんな表情を見て、ヤマムラははっきりと 『この青年は危うい、いや、子供だ。子供のまま、大人の行動力を身につけてしまった脆く危うい子供なのだ』 という事を悟った。

「……殺されるかと思ったよ」

ヤマムラは両手をぶらぶらさせると、茶化すように笑う。
……あの時、アルフレートはあまりに頭に血が上っていた。妄信的にこちらを悪ととらえ振る武器は精細さを欠き、一瞬の隙をついてそののど笛に剣先をつきつけ相手を止める事に成功したが、こちらも無事ではすまなかった。

精細さに欠けるとはいえ、石槌を散々振り回して、それをまともに受け流していたのだ。
暫く腕が痺れ、食事も不便にする事になったのは記憶にも新しい。

「あの時は……アナタのもっているその武器が、血族のものだと思って……」

ヤマムラは「千景」と呼ばれる奇妙な武器を得物としていた。
これは彼がこのヤーナムに来る以前、懇意にしてくれた親友(とも)がくれたもので……今考えてみればその親友こそ隠れ潜む血族の末裔だったのだろうが、深く考えずただ「刀と使い勝手が似ているので、他の仕掛け武器より使いやすい」と思い使っていたのだ。

それを、アルフレートが誤解した、というのが事の顛末だ。

ヤマムラに敗れた直後、アルフレートは狂犬のように激しく吼え、罵倒し、その綺麗な顔からは想像出来ないような罵詈雑言を浴びせたが、一つずつ、ゆっくり諭すように誤解をといていけば、かえって自分の間違いに気付き泣き出してしまった事も、はっきりと覚えている。

『私は、血族を殺さないといけない……善いものになれないんです……』

絞り出すようにそう語り泣き出す姿はまるで子供のようで……。

『怪我をさせてしまったお詫びをしないと……身の回りのお世話を暫くさせてください。そうでなければ、私の気が済まない』

もし、アルフレートからその申し出がなかったらヤマムラは自分から「怪我をしたから世話をしてくれ」と言っていただろう。
とにかくその時のアルフレートは、絶望のためそのまま死者に引っ張られて行ってしまいそうな雰囲気がどこか漂っていたのだ。

「……危なっかしい奴だな、って思ったよね。正直……キミは、強いんだけど……脆いな、って」
「なんですか、それ……」
「何だろう……そうだな、守ってやりたいというか……助けてやりたい、と。そう思ったんだ、あの時は」

誰かが傍にいなければ、何かに引かれて死に急ぐ……そんな印象をアルフレートにもってから、彼を傍に置くようにした。

その頃も愛情や、恋慕の情を抱いていなかったと思う。
ただそう、袖振り合うも多生の縁。出会った時点で、知り合った時点でアルフレートに対して「何かしてやりたい」と思ったし、そうする事がヤマムラにとっては自然に思えたのだ。

自分より若いのだから、あまり生き急がないで欲しい……。
憎悪と怨嗟とだけを原動力に生きるのは、あまりにも空しいのだから。

もっと、青年らしい楽しみを知って欲しいと思った。
気楽に歌を歌い、踊りを踊って。楽器を弾いたり、自然の中に身を預けて一日何も考えない日があってもいい。本を読んだり、演劇を見るのもいいだろう。
ジプシーに占ってもらったり、奇妙な香をたいて気持ちを落ち着けたり、子猫を拾って可愛がったり……。

そういう「人並みの経験」がアルフレートには欠けているような気がしたし、実際の所その通りだった。

街の片隅で子猫がじゃれついた時、困った顔をしているアルフレートのかわりにそのネコを抱き上げて。

『ほら、抱いてみたらいい』

そうやって手渡した時、おそるおそる抱きしめて……。

『わ、私はじめて子猫をダッコしました! ……小さくて柔らかいんですね』

そうやって笑う姿を見て、『やはりこの青年は、大きな子供なのだ』と。
子供のように純粋で……純粋であるが故にそれを利用され踏みにじられてしまった過去が、彼の真っ直ぐな心を、歪めてしまったのだろう。

……あぁ、思い出せる事は沢山ある。
だけど一体いつから、アルフレートの事が好きだったんだろう。

唇を交わした時からか? 身体を重ねた時からか?
そうも思うが、もっと前のような気がする。
だがアルフレートを意識するようになった時、こんなにも深く愛せる相手であるとは思ってもいなかったから。

「……思い出せないな」

空になったコーヒーカップを手に笑えば、アルフレートは不服そうに頬を膨らませた。

「なんでですかもー、忘れっぽいんですか? それとももうお爺ちゃんだから?」
「お、お爺ちゃんはやめてくれ……うーん、そうだな……自然に……キミと一緒に生活して、キミと一緒に狩りをして、そうしてキミと接しているうちに気が付いたら好きになっていた……それじゃぁ、ダメかな? ……俺にとっては、そういう事なんだけれども」
「気が付いたら……?」

不意に真面目な顔をして素直な気持ちを伝えれば、アルフレートは恥ずかしそうに頬を赤らめて俯く。

「な、なんですかそれ……自然にとか、は、恥ずかしい……です」
「いや……でもそういう事もあるだろう? 一緒にいる時間が自然に、キミへの愛情を育んでくれた……自然にキミを愛しみ、大切にしたい、幸せにしたいと思う気持ちが大きくなった……不思議じゃない」

そしてその思いは、今は止めようのないほど大きく膨れあがっているのだ。
そう伝えたらアルフレートは一体どんな顔をするのだろうか。
今でさえこんなに真っ赤になっているのだから、きっと溶けるほど照れるに違いない。

「……そういうキミはどうなんだ? ……いつから俺の事を好きになっていた」

だがその思いをぐっと飲み込み、逆にそんな事を聞いてみる。
するとアルフレートは悪戯っぽく笑い立ち上がると。

「それは、ナイショですよ!」

そういってぐっと顔を近づけて、ヤマムラに軽くキスをした。

「おい、ナイショって……こんな人前で何をするんだ、アル!」

驚きついそう口に出るヤマムラを横目に、アルフレートはさっと店を出る。
ヤマムラはやれやれと立ち上がり、店の主に「馳走になった」そう告げてアルフレートの後を追いかけた。

その唇に、ほのかな温もりを感じながら。
posted by 東吾 at 23:26| ブラボ