2019年09月28日

明日にはいなくなってしまうキミへ(ヤマアル)

ヤマアルで、アルフレートくんが旅に出る前日はドロドロになるくらいセクロスしていてほしい派なんですが。
結構、何も悟らせないように普段と全く変わらないようにぱっといなくなるかもな。
とも思うので、普段と変わらないようにしていたけど、ヤマムラには何となく分かってしまっていた……みたいな感じの地獄をかきました。

最近ちょっとサボっていたので荒い気がしますが……。
そういう俺もいいよね、って思ってくれれば幸いです。

イエーイ。かいたえらい!(?)
どうぞ。
「永訣の夜」

 真夜中に、ヤマムラだけが目を覚ます。
 隣のベッドで眠るアルフレートの顔はまるで安堵感に包まれているかのように静かだった。

 ヤマムラはベッドの隣に立つと、その顔を撫でる。
 夜はやけに冷えるからか、アルフレートの頬はやけに冷たく冷えており、氷を思わすその肌は強い死の匂いを感じさせた。

 彼は生きている。生きて、ここにいる。
 だがどうして彼からはこんなにも強い死の香りがつきまとっているのだろう。
 自分よりずっと若く、生命力に満ちあふれているというのに。

 湧き上がる疑問に対して、ヤマムラは小さく首を振った。

 何を疑問に思っているのだ、知っているじゃないか。
 アルフレートは、この世界で生きる事にそれほど執着していないのだ。
 むしろ彼にとってこの趣味の悪い箱庭のようなヤーナムという街は自分の苦渋を詰め合わせた小さな地獄でしかないのだ。

 生きるのがただ重苦しくて。
 永遠に晴れない空の下、灰色に垂れ込めた雲の中、陽の光の温もりもろくに知らないで。
 そうしてただ漫然と、傀儡のように生きていたアルフレートが手に入れた輝き……。

 ローゲリウス師の言葉という導き。
 それがどれだけ尊いものか、外の人間であるヤマムラには理解が出来かねた。

 ローゲリウスという人間の言葉は虚飾に彩られた机上の空論のように思えたし、実際そうだったのだろうと思う。
 医療教会のプロバガンダとして立てられた虚構の導き手。
 蔓延る獣の病と、増えゆく患者たち。それに対して立ち向かう医療教会の権威を取り戻すため、一時「血族」に視線を変えて、勇ましく血族を狩る為に立ち上がった処刑隊……。

 外から来たヤマムラにはそのような政治的に利用された虚構の狩人たち、というのが処刑隊の噂と、残された書物を読んで受けた感想だった。
 実際、ローゲリウスの言葉というのは理想論ばかりで、地に足がついた話とは言いがたい。
 常にどこでも通用するきれい事であり、そのようなきれい事が全て通じるような世界は存在しないというのがヤマムラの受けた印象だった。

 だがアルフレートにとって、それが救いだったのだ。
 獣になるかと怯えながらただ空虚に生きて、血の臭いがする酒で気を紛らわし、空虚に死ぬ。
 そんな傀儡のような生活に目映いばかりの光を与えたのが、ローゲリウスの言葉だったのだ。

 他人から見てどんなに薄っぺらい虚構でも、アルフレートにとっては生きる理由なのだ。
 同時に死んでもいい理由でもある。

 彼は、師の名が処刑隊の栄誉として刻まれるのなら死など厭わないのだろう。
 自分の名前など消えてなくなってもいい。
 ただ、師の名と処刑隊の栄誉が永遠に残れば、自分もその輝く栄誉の中で永遠になれるのだ。
 そう、感じているに違いない。

 一神教の信徒たちがよくそのような思いを抱いている事を、ヤマムラは知っていた。
 自分が死んでも魂が神の元に赴くのなら、それは永遠なのだと。
 また、自分が死んだ後も「教え」が語り継がれるのなら、それを語り継いでいた自分はその中の一部なのだと。
 時を超えて永遠に、ありつづけるのだと……。

 だが元より数多の神を崇め、神が必ずしも幸福だけを運ばない事を知っているヤマムラにとって、そんな永遠はどこか薄っぺらく思えていた。
 死んで得る永遠より、生きて。ムダでも苦しくても生きている今の方が大事なのではないかと。死んで名も無き「処刑隊の誰か」になるより、今自分の傍らにある「アルフレート」という存在と過ごす時間のほうが、よほど大事だろうとも。

 そう思っているが、ヤマムラには留める事ができないのもまた事実だった。
 自分もまた復讐に狂い生きていたから。
 その時、誰かに復讐は無意味だといわれても聞こえなかったし、どんなに傷ついても痛いとも思わなかった。相打ちで死ねたとしても、相手を殺しきれるのならいいと思っていたし、復讐という本懐を遂げた後の先の事なんて、欠片も考えてはいなかったのだから。

 そんな生き方をして、今死にそびれた自分に、どうしてアルフレートの輝きを否定出来るというのだろうか。

 目映いばかりに命を輝かせて、ただひたすらに師の言葉に従順である事を良しとする。
 そうでなければ生きられない彼を、どうして否定する事が出来るのだ。
 どうして。

 生きていてほしい、少しでも、ともにいたいと思う気持ちはある。
 だが自分の命を激しく燃やし、それを使い切ろうとして輝くアルフレートだからこそ愛しいと思えているというのもまた、一つの事実だろうとヤマムラは思っていた。

 もしアルフレートが「これから」を考えて生きていたのなら、自分のような根無し草のやもめ男に引っかかったりしないだろう。
 今のアルフレートだからこそ自分を愛してくれているのだろうし、今のアルフレートだからこそ自分も愛せるのだろうと。

 渦巻く思いを全て飲み込み、ヤマムラはアルフレートの顔を包み込むように撫でると彼に悟られないよう唇を重ねた。
 頬は冷たいが、触れた唇は温かい。
 生きている、今のアルフレートだ。

 そして、彼がこうして生きている瞬間を覚えていられるのは、きっと自分だけなのだろう。

 いずれ永遠の名も無き誰かになるアルフレートと触れるこの瞬間。
 この刹那こそ自分の中で永遠に生きるのだ。
 ただそれを信じて、ヤマムラは小さく囁く。

「……行ってこい、アルフレート。お前が名前を捨てたとしても、俺はずっと覚えているから。ずっと、ずっと……」

 長くともにいたから、声で。仕草で。その態度で、今日の夜を終えたら明日はもう隣に彼がいないのだというのを知っていた。
 その決別は永別であるのも、何とはなしに気付いていた。
 それでも彼を止めらないから、せめてその思いを自分の中で永遠に留めるため。

 そして自分を背負わせないため、彼に気付かれないようにキスをする。
 それが彼を送り出す事しかできないヤマムラの出来る、精一杯の愛だった。
posted by 東吾 at 22:37| ブラボ