2019年09月16日

ローブの男と友達になろう。

オドン教会にいる赤いローブの男。
最初は男なのか女なのかさっぱりわからなかったけど、多分男だよね!?

最後の最後で 「夜明けがきたら友達になってくれ」 といったのに。
結局は叶わなかった。

……。
……哀しい! だから叶えたいと思います。

生まれ変わった世界なのか。
それとも「夢から覚めた彼の世界」なのかは不明ですが約束を守りにいく狩人さんのはなしです。
「果たされた契約」

 産まれた時から彼の世界に「光」は存在しなかった。
 身体は歩くのが億劫な程ねじ曲がっており、外に出る事も滅多になかった。

 光をもたらさない彼の目では分からない事だったが、彼はその外見が決して美しくはないらしい。もっというのなら世間の基準では「醜い」男だと。「化け物じみた外見だ」と言えた。

 だから時々、誰かの手を借りて外に出れば誰かしらの不躾な、あるいは心ない言葉が投げかけられるので、彼は自然と外へは出なくなった。

 だが、それでも彼は満ち足りていた。
 彼が育っていたのは教会付属の孤児院であり、そこの教師は神父でもあったため、いつでも彼に神の話や、良き教訓、良き物語を語り聞かせてくれた。

 自分のような身体では難しいとは思っていたが、いずれこの立派な神父様のように神について語れる人間になりたいなんて、そんな願いもあった。

 生まれついて捻れた身体は歩く事すらままならず、その身体も日に日に痛みが増していく。
 あまり長くは生きられない身体だろう。
 彼を診療した医師に、そう言われていた。

 そしてそれは彼自身も実感していた。
 1年、1年たつにつれ身体の痛みが強くなり、ますます歩くのが困難になっていく。
 生まれついての身体、その見た目に驚いた親が教会の前においていったのだと聞かされている。

 神父は優しくいつだって彼に親身になってくれた。
 だが同じ教会の孤児院で、彼と親しくなろうとするものはいなかった。

 時々ベッドから起き上がれない時、食事を運んできた孤児が。

「まだ生きてるのか、あの化け物」

 ドアごしにそんな事を吐き捨てて去って行く事がある。

 彼は自分でも決して頭がいいとは思わなかったが、それでも何となく孤独である事は知っていた。
 同じ孤児院にいる子供たちと一緒に走り回ったりする事は出来ない。
 日に日に身体は衰えていき、年齢よりずっと年老いて見えるのだと聞いた事もある。
 神父様はいつでも優しく接しているが、それは「神の使い」としての行為であろう。もし普通の人間だったら決して自分に優しい手などさしのべないに違いない。

 ……友達なんて、誰もいないのだ。
 そう思うとき、ふと記憶にかすめる事があった。

『夜が明けたら、友達になってくれないか……』

 誰にそれを告げたのかは、覚えていない。
 だが『誰か』に告げた記憶があるのは確かだった。

 その誰かは自分の見た目など関係なく普通に接してくれて……。
 ……このどうしようもない世界で、一人でも誰かを救おうとする自分に、手をかしてくれた。

 やさしい人間だ。
 だからきっと、友達になってくれると思ったのだが……。

 ……友達に、なれなかったのだろうか。
 どうしてか、そこの記憶が酷く曖昧だ。

 そして結局、そう告げたのは夢だったのだと。
 自分に優しくしてくれた「誰か」なんてこの世界にはおらず、やっぱり自分は孤独なのだと改めて感じるのだった。


 その日は久しぶりに外へと出ていた。
 1年に1度の、孤児たちをつれての小旅行だ。
 とはいえ、近場にある遊園地や動物園などに行くだけなのだが、それでも普段から娯楽の限られた孤児たちには嬉しいイベントだ。

 普段なら留守番をする彼も、その日は連れ出された。
 それは日に日に悪くなっていく彼の身体を見て「これが最後かもしれない」と思われたというのもあっただろう。

 訪れたのは遊園地だった。
 賑やかな音が洪水のように溢れ、親子連れと思しき子供たちの笑顔に包まれている。
 普段から自室で静かに過ごしていた彼は、溢れんばかりの音にただただ戸惑う。

 遊園地に置かれているジェットコースターのモーター音。
 メリーゴーランドから流れるメルヘンチックなメロディ。
 聞いた事のない音に混じって人々の声と笑いが入り交じり、時々こちらを見て誰かが笑っているような気がして、彼はただただ恥ずかしかった。

 消えたい、消えてしまいたい。
 どうせこの身体だと乗れる乗り物なんてないのだろうから。

 そう思いただただ俯いてしまう彼に。

「どうしましたか? ……何か飲み物でも飲みますか? あっちに静かな場所がありますよ。ここは賑やかすぎるんでしょう」

 誰かが声をかけてくれた。
 神父でもない、孤児たちでもない、自分を介添えしてくれる人でもない誰かが。

「あ、えっ。あの」
「問題なかったら、彼をあちらの……えぇ、休ませてあげましょう。少し辛そうですから。もしよかったら私が……はい。はい」

 その人物は、慣れた様子で話をして彼を余所へと連れ出した。

「あ、あの。わ、たし。あの」
「大丈夫です、誘拐とかじゃなく。静かな所で……えぇと、何かドリンクとかアイスとか買ってきましょうか?」
「え、あ。あの、じゃあ、飲み物を……」
「はい、何がいいですか?」
「こ、コーラを! コーラというのを、飲んでみたくて……へへへ……」

 そう笑って、しまったと思う。
 彼はよくこう、笑うと引き笑いのようになってしまい「ひぃ、ひひ。ひぃ」と笑うのがいかにも悪人のようだと馬鹿にされたからだ。
 だがその人は気にする様子もなく。

「わかりました、コーラにしますね。少しまっていてください」

 そういって、彼の前にコーラとハンバーガー、ポテトをつけてもってきてくれた。

「こういうのはどうかな、と思ったけど。お腹が減ったら食べてもらえたら……」
「あ、あぁ。ありがとうございま……あぁ、あなたは、優しい人ですね。おれ、おれなんかに……こんなおれなんかに」
「だって」

 と、そこでその人は、言葉を切る。

「約束したでしょう、夜が明けたら友達になろうって。ふふ……それとも、忘れてしまったかな?」

 そして、そんな事を告げるのだった。
 彼は目が見えないが、きっと笑ってくれているのだろう。
 馬鹿にするような笑みでもない、優しい笑顔で。

「あぁ、まさか。そんな……」

 見えないはずの目から熱い涙が零れるのがわかる。

 長い、長い悪夢を得て。
 叶わないはずの願いが、ようやく叶った瞬間だった。
posted by 東吾 at 13:58| ブラボ